或ル死神ノ話◇壱

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 今日の対象は……居た。視界の狭い道の交差点に魂がひとつ、ネコだな。  導く魂はなにも人間だけに限られない。魂があれば導かなければならないのだから、大きな動物から小さな虫まで相手の多い仕事だ。  普通なら猫の魂は猫の死神、人の魂は人の死神が受け持つべきなのだが…人手、というか死神手不足なのだ。  まあ、その事で頭を悩ますのは俺の仕事じゃないさ。  この猫は車に轢(ひ)かれでもしたのか、少しばかり気が立っているようだ。だが自身の置かれた状況は理解しているようで落ち着いている。助かった。  こういう時、人間なんかだと落ち着かせるところからやらなければならない事が多く面倒臭いのだ。  俺はネコの形をした魂に触れて話し掛ける。これは生きた身体を持つ者には出来ない事だ。ついでに結構集中力もいる作業なので正直キツい。  こうして魂同士で触れ合い、相手の思いを聞く。多くは悲しみや憎しみ、怒りや憤りなどの負の感情。それらが殻(から)を外した俺の魂に直接流れ込んでくる。  『導き』の後、何度かそういった感情に支配されたこともある。  正直、怖かった。  自分が他人の感情に支配される事、自己を失い二度と取り戻せなくなるかもしれないという恐怖に取り付かれた。  それでもがむしゃらに『導き』を続けていた時、アイツに会った。
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