1章

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「すいません、キャバクラのスカウトなんですけど──」 夜10時過ぎの駅前通り。 いつもこの時間帯になると、いかにも夜の妖しげな店の使いっぱしりをやらされてるような、顔に似合わない黒いスーツ姿で、髪の毛をベッタリとワックスで固めたキャッチの男が手当たり次第に若い女の子を必死で追いかけている。 「体験入店もやってるんで、良かったら1日だけでも──」 名刺をムリヤリ渡そうとひたすらくっついてくるキャッチを振り向きもせず私はシカトして通った。 ひたすらムシし続けたせいか、ようやくスーツ姿の男は去って行った。 ったく。毎日うっとおしいなぁ。 こっちは7時間立ちっぱなしで疲れてるんだから。 昨日もシカトしてやったのに懲りないやつ。 ほぼ毎日、学校帰りにコンビニのバイトして、帰ってくるのはいつもこの時間なので、イヤでも毎日このキャッチがうじゃうじゃいる通りを通らなければならなかった。 風俗店が多いこの街は夜になると、ドハデなメイクをし、香水の匂いをプンプンさせ、いかにもこれからご出勤ですってカンジのおねエさんたちや、これからそんなお店で輝くかもしれないであろう若いコを探し回るおにイさんたちであふれている。 「君なら4000円出すよ」 なんて勧誘に思わず足を止め話を聞き入りそうになるけど、ハッと我に返り、 「小学生なんで」 なんて罵ってやると、 「コイツ頭おかしいんじゃないの?」 と言わんばかりに首をかしげて去っていく。 そんなキャッチを見るとたまらなく優越感に浸れるのだ。 私の通う高校は私服OKな学校で、学校帰りすぐトイレじゃないとこでタバコが吸えるように、ほとんど毎日私服で通っていた。 ファッションセンスはまぁまぁで、流行には敏感な方だから、いつもその時の「旬」のカッコをしているけど、世間一般的にはただの「ギャル」にしか映ってないらしい。 キャッチが声をかけやすい対象のカッコをして、この時間歩いてるんだからムリもないだろうけど…。 友達は学校にバレないようにこっそりキャバクラで働いてる子が何人かいる。 でもそれは特別な事情があるような子で、まだ17才でママだったり、一人暮らしをしてたり…。 若い女の子が生活を全て自分の力でやるとなると、時給850円くらいのコンビニやファミレスのバイトだけではがんばってもボロアパートの家賃程度にしかならないものね。 そんな彼女たちは、やはりときどき学校を休む日があるが、ちゃんと通って来ているので、ひそかに感心を持っていた。
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