―収集者―

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よく考えたら この世界の住民も あのいたいけな少女も 今私の背後に付いてる不審者も 可哀想なんだよな。 壊されるためだけに産まれ 壊されるためだけに生きてきた。 名前さえ貰えずに 会話さえ産まれずに 壊されていくんだよな 歩きながら、そんな事を考えてた。 私は何か行動を起こすべく、暗闇の世界を彷迷っていた。 『お前、気の毒だな』 背後の奴に声をかける。 奴は何を思い、私に付いて来るのだろうか…? 振り返り、奴を見る。 奴はただぼんやりと、足下を見つめていた。 『名前、私で良ければ付けてやるよ。』 名前を付けるなんて…。 小学生の時に飼った、ハムスター以来だが。 『何がいい?かっこいい名前が良いよな?』 独り言のようだが、目の前に相手が居るから、決して独り言ではない。 空には相変わらず、下半分だけ残した半月が浮いていた。 『―…下弦。』 『そうだ!お前の名前、下弦とかどうだ?かっこいい名前だろ?』 我ながら完璧なネーミングセンス。 奴に通じたかは定かでは無いが 『下弦。』 私がもう一度、念を押すように言うと 奴は前みたいに 『カ…ゲン?』 私の言葉を復唱するのだった。
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