~春~

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それをギュッと握りしめて、 瑞希の方に向き直った。 「瑞希…」 「ん…?何?」 ――その時、 小さな子供と母親らしき女性が 前方から歩いてきた。 ポケットの中から箱を取り出そうと、 少し力をこめた。 「これ……」 しかし、 手を止めた。 瑞希は、下を向きギュッと 目をつぶっていた。 その横を通っていく 小さな子と母親。 俺は、悟った。 瑞希は真っ赤な自分の目を 人に見られるのを恐れていると…… 瑞希は小さく息を吐き、顔を上げた。 「…瑞希」 「ん?あ、ごめん。 明…何か言った?」 「…あ、あのさ」 顔上げてろ、 って言いたかった。 でも、 瑞希は苦しんでいる。 病気だけでなく 世間の目からも… そう考えると、 言えなかった…… 「いや… 何でもない」 顔上げろ、なんて 言えなかった……… ――ポケットの中で箱を手離した。 汗ばんだ手が少し 冷たくなったのを感じた。      
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