14人が本棚に入れています
本棚に追加
――それから一年後。
整然と立ち並ぶ墓の間を、花を持った一人の女性士官が歩いていた。
辺りには誰もおらず、昼間だというのに不気味な雰囲気を感じる者も居るかも知れない。
だがその女性士官、中佐の階級章を襟に付けたカズハは吹っ切れた様な、何処か晴れやかな顔をしていた。
少なくとも、墓を参る者の顔としてはこの場にそぐわない。
「…………」
目的の墓の前に辿り着いたカズハは、沈黙したままその墓を見下ろした。
献花台に花を置こうとしたが、所狭しと置かれた大量の花束を前に少し悩んだ顔をする。
結局、花束の上に置く事にし、数十秒の間屈んで目を閉じた。
墓には"アドミラスブルグの若き英雄"とだけ刻まれていた。
軈て目を開いたカズハはゆっくりと立ち上がる。
「隊長、貴方のお墓だけお花畑みたいですよ?この光景を見たら、墓碑銘を見たら、貴方は頭を掻いてそっぽを向くんでしょうね……」
その言葉の返事は返って来ない。
「私は今も貴方のご命令を守り続けてます。……皮肉な話です。貴方の為に死ぬ覚悟をしていた私が生き長らえ、それを拒絶して私に生きる様に命令した貴方は……もうこの世に居ない」
泣きそうな顔を崩さない様に必死に堪え、俯いた顔は上げないまま言葉を続けた。
最初のコメントを投稿しよう!