14人が本棚に入れています
本棚に追加
「私達があの時生き残れたのは隊長のお陰です。貴方という命と引き換えに、私達は生き延びる事が出来たんです」
事実がどうかは分からないが、カズハはそう思っていた。
この考えも、捉え方によっては皮肉な話だろう。
"多数を救う為に已むなく少数を犠牲にした"
それを嘲笑ったキスリングが、運悪くその少数に入ってしまったのだ。
これを喜劇と取るか、悲劇と取るかは個人の見解によって変わるが、これだけは言える。
神という物が存在するのなら、余程冷笑的な存在なのだろう。
「だけど私は……多数を犠牲にしてでも、貴方には生きていて欲しかった。その多数に私が入っていたとしても……、貴方だけには……」
目に涙が滲む。
瞼で支えきれず、ゆっくりと頬を伝った。
泣かないと決めてここに来たのに……
カズハは相も変わらず泣き虫な自分に心底腹が立った。
「全部貴方の所為ですよ……。私が貴方を好きになったのも、私が泣き虫なのも、私が貴方の副官になったのも、隊長以外の人を補佐したくない私が……」
最後は嗚咽に掻き消され、言葉にならなかった。
溢れる涙を手の甲で拭い、カズハは毅然とした顔で敬礼する。
「また来ますね、歴史上最年少の少将閣下。私だけの……キスリングさん」
死者に対する告白。
カズハの想いは、キスリングが死んで初めて明かされるのだった……
最初のコメントを投稿しよう!