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「ねぇ、なんでいつもアメリカンなの?」
向かいの席に座っていた彼女が急に聞いてきた。
「え?」
僕は読んでいた文庫本から顔をあげて、彼女の顔を見た。
「喫茶店に入るといつもアメリカンだから、 なんでかなと思って」
「ああ、それは…」
僕は読んでいたページに栞を挟んで本を閉じ、テーブルの上に置いた。
「昔はコーヒーなんてただの眠気覚ましに飲んでいたようなものだったんだ。
だけどあるとき飲んだコーヒーがおいしくてね。
それがアメリカンだったんだ。
それからずっと、あの時の感動をまた味わいたいと思って飲んでいるんだけど、中々同じようにはいかない。
きっともう二度と味わうことはできないんだと思う。
もう二度と、初めて自転車に乗れたときの気持ちを取り戻せないようにね」
僕はそう言って、コーヒーカップに口をつけた。
まるで、泥水を流し込んでいるようだった。
「ふうん」
そう言って彼女はカフェ・オレを飲んだ。
僕は再び文庫本に戻り、彼女は窓を見て、その外にある景色を見て、さらにその向こうにある何かを見ていた。
「ねぇ、なんで空は青いの?」
「さぁ。ここが地球だからかな」
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