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夜になったためか昼間の時薄暗かった通路がよりいっそう暗く感じられた。
「あの、先生に会いに来たんですけど……」
「そっち……」
昼間来たときと姿勢が変わらない姿を見て、この人はどういう人体構造をしているのだろうか、地球人なのかとヒーローは疑った。
か細い声で誘導された通りに、淳也の部屋に入った。
「お、来たか。どうせ意味わかんなかったんだろ?」
「はい」
自分で「意味わかってないだろうからこい」と言っておきながら再確認。
あまりいい気はしなかった。
「まぁ、意味は説明してやるよ。『己の欲せざるところ人に施すことなかれ』っていうのは、昔の中国の偉い人が言った言葉で、自分がして欲しくないことは人にするなって意味だ。わかるか?」
「ええ、わかります」
当然のことだ、ヒーローはそう思った。
「どういうことかわかるか?」
「え、そのままの意味だと……」
「チッ、チッ。違う違う。発想を逆転させてみろよ。して欲しくないことをするなってことはどういうことだ?」
妙に苛立つ言い方に心がざわつくのを感じながらも、右上を向き思案してみる。
発想の逆転とはどういうことか。
自分にとって欲しくないことをしてはいけない。
それを逆の発想で考える。
しばらく、右上を凝視したまま動かない。
数分の沈黙。
淳也は答えを急かそうとすることなく、じっと待っていた。
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