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「ん? 自己満足?」
自分の頭に浮かんだ言葉が引っかかった。
この言葉が何か重要な鍵を握っている気がする、そう思いヒーローは「自己満足」という言葉を頭の中で反芻(はんすう)する。
ヒーローが必死に悩む姿を見て、淳也は笑みを浮かべている。
その笑みは自信からくるもので、自分のアドバイスが絶対的なものであるという思いが伺える。
「あ……わかりました。わかりました!」
突如ヒーローは声を上げた。
初めてこの部屋に入ってきたときとは違う、清清しく元気のいい声。
黒衣をイスにかけ、淳也が立ち上がった。
「何がわかったんだ?」
「わかったって言うより、自分の考えていたこと、悩みが解決したんです」
「ほぉ」
髪を掻き話を進めるように促す。
「昔の偉い人は言ったんです。『己の欲せざるところ人に施すことなかれ』って、裏を返せば『して欲しいこと』をしろ。でも、『して欲しいこと』は人によって違うんです。僕がやってる仕事も人間から見れば『して欲しいこと』でも、地球を侵略したい怪人からすれば『して欲しくないこと』なんです。これは全てのものにいえると思うんです」
ヒーローはここで一息つく。
興奮した面持ちで話すがあまり、身振り手振りが話に加わった。
「それで」とさらに続ける。
「それは全てのことに言えると思うんです。一方の利は一方の害、全ての利になることはこの世に存在しないんです。だから、僕の行為は「自己満足」だったんです。それについて悩むことはないんです。先生はそれが言いたかったんですよね?」
ようやく胸のつっかえがとれ、さらにしっかりと自論が展開できたことでヒーローの顔は上がっていた。
淳也は黒衣を脱いだことと万年筆を回していること意外は最初と変わっていない。
「俺にはわからない」
「え? 先生が言ったんじゃ」
「お前が思ったならそれが答えで、俺は何も知らない。俺はただお前が答えを出す手助けをしただけだ」
最初と変わらない姿で、憮然と淳也は言い放つ。
その必死さを感じさせない話し方にヒーローは安心感を抱いていた。
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