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必死に絞り出す声は月夜を駆け抜けるだけで、由美の耳には届かない。
薄々感づいてはいた。
バイト中に時折見せる、何もかもを終わらせたいという衝動を感じさせるような表情に。
淳也の真正面に立つ由美は、衝動に飲み込まれていた。
もう届きそうになかった。
それでもなお、淳也は話すのを止めようとしない。
心のどこかで期待しているのだ、奇跡を。
このネオンと月明かりが入り混じった街のを見下ろす大学の上で。
不意に由美が口を開いた。
「淳也君、もういいから。もう私は死ぬから」
人生に悲観して自殺するような人が発する、弱々しくか細い声ではなく、むしろ逆。
何か充足を得たかのように力強い声。
それが由美の意思をより一層強く感じさせる。
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