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空なんて落ちてくる訳がないと笑い飛ばすことはできなかった。
由美の真剣な眼差しが、そうさせた。
それでも淳也は、ありえないことだと否定した。
「空なんて落ちてきませんよ。大丈夫です」
力強い声を出そうと、足を踏ん張り腹に力を込めて言った。
更に二言目を言おうとして由美の目を見たとき、淳也は崩れるように座り込んだ。
呻き声に近い声が淳也の喉から吐き出される。
由美の目を見た途端、確かな恐怖に襲われた。
空が落ちてくるという恐怖に。
淳也は立ち上がろうとするが、震える足が言うことを聞かない。
震える足で立とうとする淳也の姿は、ダウンをしたボクサーのよう。
そんな淳也を見て由美は、小さく息を吐いた。
「耐えられる? 私はずっとこの不安に襲われてた。もう無理なのよ」
由美は向きを変え、大学の端。
すなわち飛び降りる場所に移動した。
「今までありがとう。私、楽しかった。じゃあ」
「待ってください」
叫ぶというより怒声に近い声で淳也は由美の背中に声を掛けた。
「空くらい、俺が受け止めますから。不安くらい、俺がぶち壊しますから。戻ってきてくださいよ」
無理に元気を装った声が、二人しかいない大学をこだまする。
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