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とあるバーにたむろする数人の若者……。
「マジかよ!」
「うん、ちゃんと調べたから間違いない」
自分の言葉に歓声を上げる男達に、少女は少し得意になっていた。
「じゃあ、小遣い貰えるんじゃん?」
「小遣いなんてセコい話じゃない。私には権利があるのよ? アイツに近付いて、それを主張するの!」
一見して、どこにでもいる若者……しかし、彼女は悲しい過去を背負っていた。
「なんだよ、シュチョーって本格的だな!」
「ば~か、頂けるモノはキッチリ頂くだけ」
彼女には今、悲しい過去を背負わせた人物に、恨みにまで膨張した感情を、晴らす機会が廻って来ていた。
「儲かったら、俺達にも分け前回すんだろうな?」
「それは、アンタ達の働き次第」
歓声を上げる男達を睨みつけ、彼女は良く通る声を、更に張り上げた。
「言っておくけど、私の一番の目的は、あの男に恨みを晴らす事! 邪魔は絶対許さないから!」
彼女を中心としたその宴は、朝方まで続く。綿密に練った計画を、細部に渡り説明を繰り返す。
頷く男達の目が、邪に染まっているのに気付いてはいた。
それでも、延々と自分の中に存在し続けた暗闇、それを晴らせるのならば……彼女が考えていたのは、ただそれだけ。
何者かに恨みを抱く少女。彼女の正体……そして、悲しい過去を背負わせた人物とは……。
店を出る頃、東の空は闇を溶かし始め、街路樹の枝は、鳥達の目覚めでにわかにざわめいていた。
「今日、面接に行ってくるから! また連絡するよ」
彼女の言葉で宴は終わり、明け方の街を、若者達はそれぞれの場所へ散って行く。
「やっとここまで来た……もうすぐだ」
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