日常

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  昨日から2日がかりの人間ドック。健康という安心を買うためらしいが、むしろ、檻に閉じ込められて、不安だけを突きつけられる感覚だ。   「私は年に二回、必ず受けてますよ。お宅は初めて?」   「ええ……妻がうるさくて」   「言われてるうちが華ですよ、ウチなんか……」   井戸端会議で実のない話が好きなのは、女だけかと思っていたが、最近はそうでもないらしい。隣に座った小太りの男が、俺の憂鬱を誘う。   「多少血糖値が高めですが、概ね健康体ですよ」   「概ね」が、金を出してまで買うほどの安心かは甚だ疑問だが、最後の問診を終え、ようやく解放される爽快感は、それなりの価値がありそうだ。   「詳しい検索結果は、後日ご自宅に郵送されます」   自分では若いつもりでいたが、俺も毎年こんな事をしなきゃいけない歳になったか。独り身なら、考えもしなかっただろうが……。   アイツには苦労をかけた。せめて健康くらいは保証してやらなくては。       「お帰りなさい」   ドアを開けた瞬間、自分が健康なのを自覚する。一昨日から、粗食で過ごしたストレスを埋めるように、妻が腕をふるっていたからだ。   「お腹すいたでしょ?」   「ああ、拷問だったよ」   本来、ノンビリ体のケアをしている暇はない。食事中も俺の頭は、2日間のロスをどう取り返すかにシフトしていた。     「ねえ」   「ん?」   「仕事の事を考えてるでしょ?」   頬を膨らませ、優しく笑う妻。   いいか……どうせ明日からは戦争だ。今日のところは、ノンビリさせてもらおう。   それが妻と、職場への感謝を表す一番の方法だ。       「なあ、DVDでも借りに行かないか?」   「ホントっ!?」   こんな日常を、妻は望んでいる。それが許される日は、できる限りそうしてやろう。   「何か変わった事は?」   頭をオフに切り替える為、会社に電話を入れる。     「変わった事の無い日なんか無いのはご存知でしょ? 今日はユックリして下さい」   ふふっ、頼もしい事を言ってくれる。   「ありがとう、困ったら電話してくれ」   電話を終え顔を上げると、出かける支度を済ませた妻が、心配そうな顔で立っていた。     「会社で何かあったの?」       「いや……心配ない、行こうか」
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