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「あおいさんっ!」
妻は、俺を押しのけ、あおいに駆け寄る。
「もう! 部屋借りてから、全然寄り付かないって、ひどくない?」
あおいは12月の始めまで、俺達と一緒にここで寝泊まりをしていた。
というよりは、半年も入院していた俺の代わりに、身重の妻の面倒を見てくれていたと言うべきか。
仕事だけではない、あおいには本当に感謝している。
「ああっ! そのまま座らないで! シワになるでしょっ!」
あおいとの談笑に夢中だった妻が、缶ビールを開けた音に気付き、慌てて飛んでくる。
「ケンちゃん、お風呂はあおいさんの後だよ」
やれやれ……スーツを脱いだ途端、ジャージを着せられたのは、そういう意味か。
「あらあら、人前では、ケンちゃんって呼ばないんじゃなかった?」
あおいは妻を茶化す。
「そうだった……お風呂は後よ、ア、ナ、タ!」
「よせよ……」
「アハハッ、ほら見てユカ、早川さんたら照れてる」
今度は女2人で、俺をからかう。ユカとあおい、2人は本当の姉妹のようだ。
ひとしきり騒いだ後、妻……ユカは大きな腹を揺すりながら、あおいの着替えを用意しだした。
「お風呂はいいよ、帰らなきゃ」
「なんでぇ? いいじゃん、ユックリしていけば!」
苦笑いしながら、視線は俺に助けを求めている。
「明日の朝、着替えに戻ってから、ゆっくり出勤しろよ」
そういえば、会社を立ち上げて以来、あおいは殆ど休んでいない。本来、2~3日ゆっくりさせてやりたいが、そうもいかないのが現実。
「そうだよ! たまには飲もっ!」
せめて今夜は、彼女の奮闘を労ってやりたい。
「じゃあ……」
申し訳なさそうに、バスルームへ消えるあおい。
「あ、早川さん」
「あ?」
壁から顔だけ出し……。
「覗かないでよ!?」
「うるせぇっ!」
今度は、ユカの方を向き……。
「ユカ、お酒はダメよ? もう臨月なんだから」
「ええ~っ!」
3人揃って、ここでメシを食うのは随分久しぶり。それぞれが、少しずつはしゃいでいた。
俺、ユカ、あおい。
久しぶりに家族揃っての食卓、無理もない。
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