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北の果てにある、この国の海はプランクトンと空気により、暗く深い色をしている。
テテルはテトラポットに乗って毎日その海を眺める。潮風は一段と寒いし、潮気で体が湿るがそれでも、ここは日光と暖まったテトラポットがポカポカと気持ちが良いのだ。
体を温めてから体についた潮気を綺麗に舐め、次の場所に向かう。
車のないこの町にある大通りは、かつての喧騒は微塵もない。今は白い壁の家が静かに佇んでいる。町を復興させる折りに、当時の私に因んで町中の壁を白くしたのだ。
水晶だけ安置してくれれば良かったのだが「感謝と過去を忘れないためだ」とその時の市長が言ったのだ。
思い出に浸っている間に、テテルは目的地……二つ目のお気に入りの場所についた。
小さな公園の、錆ついているが未だ子供達に人気のブランコだ。
このブランコはあの頃あった物とは違うが、同じ形の同じ色で残っている。管理人が昔遊んだ思い出を残したくて、そのまま変えずにいるらしい。
テテルはブランコの椅子に乗り、時折強く吹く風に揺られ体を丸めた。
『今日は邪魔者いなくて良かった』
そんな事を思いながら、深呼吸をする。潮の香りが薄れ澄んだ、ひんやりとした空気がテテルの肺を満たす。
気持ち良いゆっくりした時間に満足しながら、テテルは浅い眠りについた。
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