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「…一緒に風呂……拒否権はないから嫌だとは言わないけど何故に風呂?」
「お風呂とは食事と同じ位にコミュニケーションを深めやすい場所だから。かな?お風呂を一緒に入るって事は結果的にご飯も一緒に食べるって所に繋がるし。」
…返す言葉が見つからないんだけど。
はぁとかへぇとかさ、そんなのしか出てこない。
抜け目無いなぁ…。別に一緒に風呂が嫌なわけじゃない。
狭い風呂に一緒っていうのは初めての経験だからかどうかはわからないけど…遠慮するのがおかしい距離感って感じで……なんていうんだろ?
近くにいてもいいんだって安心感?なのかな?
そんな風に感じたんだよな…。
「で、最後の三つ目。これから暑くなる夏までは一緒に寝る事。」
暑くなるまで…一緒に…!?
「えぇえっ!?えっ?なな、なんで?」
持とうと手を伸ばした先にあった箸が目測を誤ってコロコロと机の上を転がり、和斗さんの前まで進んだ。それを手に取った彼はクスクスと静かに笑う。
「驚いた?やっぱり驚いた?…と言うか驚くよね、普通は。」
「そりゃ驚くよ!!この歳で一緒の布団に寝るなんて…」
和斗さんから転がった俺の箸を受け取る。
伸ばした先にあった和斗さんの手と違って自分の手は微かに震えていた。
…動揺しすぎだろ自分。
「でも涼貴は今まで誰かと同じ布団で寝た記憶はないんじゃないか?」
「うん。ないよ。正直に言うけどずっと一人。それが当たり前。」
「なら…きっと心から安心…というか安らいで眠れた事は無いんだろうね。」
茶碗を持ち、残り僅かな食卓の彩りに和斗さんは静かに箸を伸ばす。
焦点が一瞬、グラっとぼやけた。
箸を進める和斗さんを一目した後、俺は残った白飯を味噌汁と一緒に無心で口に流し込んだ。
俺には心から安らぐなんて気持ち…
確かにわからない。安らいで寝た記憶は無い。
それがわからない…俺が気づいていないという事に気づいていたという事がひどく胸を締め付けた。…心の中がじわじわと熱くなる。
一緒に寝る事と言われた瞬間、理由は
誰かと寝た事がないだろうから一緒に寝よう。
ってのしか考えていなかった。
安らいでなんて言葉…
出てくるなんて思わなかった。
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