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考えないようにしているのに頭の中には小学校の頃の参観日や運動会の回想が流れてくる。
普通なら家族と一緒の場面…「愛」で繋がる誰かとの一緒の空間。
無くしたはずの頼りたい…甘えたいっていう自分の気持ちが溢れ出てくる。
あやふやにしか知らない「愛」って言葉が頭に響いてくる。
起きたらある料理や、一緒にお風呂に入ろうとか…好きじゃないとしないよな…それは愛と同じなのかな…?
食べ終えて、箸と茶碗を静かに置いた。
それと同時に視界が滲む。
ポタポタと滴が、俯いて見えている拳を濡らす。
「涼貴!?」
食器が置かれる音と同時に、ガタっと和斗さんの椅子が動くのが視界の隅に見えた。
「ごめん!!僕が悪かった!!ペラペラと言い過ぎた!!…だから泣き止んで?な?」
俺の横でしゃがんで表情を覗きこむ和斗さんの顔が見える。
背中をぽんぽんと優しく叩く手。
それが余計に視界を滲まさせる…
「和斗…ん…違う。悪くない…」
必死に言葉を絞りだそうとしても、いっぱいいっぱいで続かない上に、しゃくりあげる呼吸のせいで息が苦しい。
「ならどうした?泣いてるって事はなにかあるんだろ?言ってごらん?なんでも聞くから。な?」
そう言う和斗さんに焦点を合わせるとすごい心配してるんだと、表情一つで読みとれた。
あぁ…だめだ。我慢できない。
誰かにずっとして欲しかった事…
和斗さんにしてもらいたい…
「おも…っきり…だ……きしめて…ほし…い…。」
子供を宥めるように問いかける優しい言葉が、小さい頃から積もり積もってきた気持ちを口から溢れるように出させた。
うまく話せない…聞き取りにくいはずの言葉を俺が言い終わる前に、長い両腕が背中をまわり、 顔の前にパジャマのボタンが見えた。
なんなんだ俺…
なんでこんなに泣いてるんだ?
今まで泣いた事なんて無いに等しかったのに…
湧くように溢れる涙。
止まりそうな気配は無い。
「…もう寝るか?勉強は明日の朝にしたら?」
頭の上から降る言葉が、胸にすとんと落ちる。
さっきよりもしゃくりあがりがひどくなって、返事すらできない俺は、ゆっくりと頷いた。
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