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前を歩く和斗さんの服の端を握り螺旋階段を登る。
出しきるまで止まりそうにない涙が頭痛を連れてきたけど、それでも雫が頬を伝うスピードに変わりはない。
階段を登り終え、初日に案内されて見ただけの部屋の扉が開かれて中に入ると、枕元の調光だけがぼんやりと光っている。
入り口から手を引かれるまま、一緒にベッドに腰を掛けるとギシッと軋む音がした。
並んで座っている和斗さんが目覚まし時計を手に取り針をあわせる。
「明日…朝6時起き位で大丈夫?」
俯いたままの俺の耳に声だけが届く。
こくりと頷くと、和斗さんの手が俺の後ろを通り、時計を枕元に置く音がした。
「じゃあ…寝よっか。」
そう言って和斗さんが、横に二つ折りにしていた掛け布団の端を左手で持ち上げて後ろの壁際へと身を引く。
「ほら、そんな固まってないで早く入りな?体冷えて風邪ひくよ?」
…確かに。今日風邪をひくとマズい。火照っている顔とは対照的に足先はじわじわと冷えてきているし…
でもやっぱり…一緒のベッドって…なんかこう…
緊張するんだよなぁ。
涙がとどまらない割には冷静に考えられている自分の頭が、落ち着いてきた事を教えてくれた。
俺やっぱり今日は一人で寝る事にする。
そう言おうとした瞬間、右肩から勢いよく下に向けて引き落とされて仰向けに倒れ、その上から掛け布団が視界を覆いそうなぐらいにかぶせられた。
「早く足を中に入れないと布団の上から口と鼻おさえるぞー。」
羽毛越しに聞こえる声。俺は素直に足を上にあげ布団の中へと入れる。
それと同時に顔までかけられた掛け布団が肩まで下げられた。
「何その脅迫めいた言葉…」
笑い混じりに言うと和斗さんが口を開けずに笑った。
「そうでも言わないと自室に戻るかなって思っただけだよ。」
「そ、そんなこと言わないし。」
図星をつかれて思わず視線と体を天井に向けてとっさに言い返した。
枕元の調光の光がぼんやりと真っ暗な視界を明るく照らす。
少し高い天井にはうっすらと自分の頭の影が写っている。
「オレンジの光には安らぎを与える視覚効果があるんだよ。あと食欲増進も。」
同じように天井を見ている和斗さんが呟くように言った。
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