773人が本棚に入れています
本棚に追加
たっぷりの愛情を受けて育ったのだろう。
愛情……か。
情は俺だって知っている。
施設にいれば途中から来る子達を可哀想としか思えないから。
自分と重ねて優しくなれる部分もあった。
けれど愛は今まで知らなかった。というより、無償の愛なんてわからなかった。
見返りのいらない想いなんて正直わからない。
施設の先生も仕事と義務と奉仕精神な部分はきっとある。
けれど昨日の夜の和斗さんの色々な言葉とか、この今俺を包んでる腕とかは、間違いなく見返りなんか求めていない。
それはわかる。
寝ている無意識の状態でまでそんな事を考えられる人はそういないから。
…昔、寂しくて寂しくてどうしても1人で寝たくない夜があった。
施設の先生にしがみついて、今日だけでいいから一緒に寝て欲しいと言うと「先生は向こうで寝なきゃいけないから」と返された事がある。
今思うと嘘でもいいから「一緒に寝てあげたいけど」って言って欲しかったんだと思う。
気持ち
が欲しかったんだろうなー…
こういう事って思い出すと妙に切なくなってくる。
例えるなら胸の奥がチリチリと煙を上げるような感覚。
和斗さんが起きないようにもぞもぞと動いて、和斗さんの鎖骨位置あたりにまで頭を移動させる。
なんとなく…冷えきった胸元に少し頬をあててみる。
ゆっくりと鼓動の音が振動になって響く。
なんとも言えない気持ちが襲ってきて、たまらず和斗さんの襟元をぎゅっと握ると、少し気づいたのか俺の上に乗せている手がポンポンと軽く背中を叩いた。
目覚ましが鳴るまであとどれくらいだろう…
目を瞑ると眠れるけれど、開けていたら起きていられる感じ。
てか…ほんとに受験するんだな。
なんか……そんな感じがしないんだけど。
こう…今この状況が自分にとって非日常的だからかなぁ……
「う…ん…」
「…?和斗さん?もしかして起きました?」
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
和斗さんが唸って俺が返した瞬間に目覚ましが鳴った。
なんだ、もうそんな時間だったのか…
体の上におかれていた手がゆっくりと離れ目覚ましのほうへ伸ばされ音が消された。
「おはよう涼貴。」
頭のすぐ上から聞こえる声に落ち着いたはずの鼓動のスピードが再び上がる。
あ…無理。やっぱ無理。
最初のコメントを投稿しよう!