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自分の聴覚を疑った。
――子を殺す親もいる?
「僕は、父の差し向けた車に撥ねられて身体を失いました。
事故ではなく、邪魔になって消されたんです」
その衝撃的な言葉の意味を、聡美は理解できずに硬直した。
――歪んでいる。
「父は他にも子供を設けていますが……兄弟は悪くない。こうなったのも、僕のせいなんです……」
「それって一体……?」
「最近、身体に不自然な火傷のある若者が連続して死んでいます。
その事は、ご存じですか?」
「あ、ニュースや新聞で少し……」
聡美が頷くと、那智は瞼を伏せる。
陶磁器のように白い肌に、長い睫毛が影を作る様を、何と形容すれば良いのだろう。
それは間違い無く、美しいと称されるに相応しい姿だったのだが、ここでそれを口に出せるほど聡美は無神経ではないつもりだった。
「それは皆、僕の兄弟……つまり、仁科康治の血を分けた子供達です」
「っ?!」
大きく目を見開く聡美を見て、那智は苦笑する。
「驚かせてしまってすみません。
ですが、父は有能な"人形"以外は要らないと考えている――それは事実なんです」
「言いなりにならなければ、殺すって言うんですか……?」
そんな悲しい事、この世にあって良い筈が無い――。
聡美の思いとは裏腹に、那智の姿をした青年はまた首肯した。
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