ファイルⅠ・憑依

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   自分の聴覚を疑った。  ――子を殺す親もいる? 「僕は、父の差し向けた車に撥ねられて身体を失いました。  事故ではなく、邪魔になって消されたんです」  その衝撃的な言葉の意味を、聡美は理解できずに硬直した。  ――歪んでいる。 「父は他にも子供を設けていますが……兄弟は悪くない。こうなったのも、僕のせいなんです……」 「それって一体……?」 「最近、身体に不自然な火傷のある若者が連続して死んでいます。  その事は、ご存じですか?」 「あ、ニュースや新聞で少し……」  聡美が頷くと、那智は瞼を伏せる。  陶磁器のように白い肌に、長い睫毛が影を作る様を、何と形容すれば良いのだろう。  それは間違い無く、美しいと称されるに相応しい姿だったのだが、ここでそれを口に出せるほど聡美は無神経ではないつもりだった。 「それは皆、僕の兄弟……つまり、仁科康治の血を分けた子供達です」 「っ?!」  大きく目を見開く聡美を見て、那智は苦笑する。 「驚かせてしまってすみません。  ですが、父は有能な"人形"以外は要らないと考えている――それは事実なんです」 「言いなりにならなければ、殺すって言うんですか……?」  そんな悲しい事、この世にあって良い筈が無い――。  聡美の思いとは裏腹に、那智の姿をした青年はまた首肯した。    
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