目覚めたら

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 蝉の声も忙しく、暑さも増して感じられる、そんな夏の日。  そう、学生は夏休み。ここに、明治から続く、こぢんまりとした呉服屋、高須賀呉服店の一人息子で、中学2年生の高須賀優斗〈タカスカユウト〉が居る。優斗は、せっかくの夏休みを、毎日ダラダラ寝て過ごしていた。  今日も優斗は、いつものように、二階にある仏間で昼寝をしていた。 ……仏壇に足を向けて……。  「優斗ぉっ!優斗っ!」 母親が、家中に響き渡る様な声と、乱暴な足音をたてて来て、優斗の居る仏間の襖を勢い良く開けた。  「まぁた仏壇に足向けて寝て!バチ当たるよ!」 母親は、パンッと、良い音をたてて、優斗の尻を叩いた。  「ってーな……。」 寝ぼけ眼を擦りながら、優斗は起き上がる。  「ひぃばぁちゃんのお見舞いに行くから、仕度しなさい。」  「んー……。」 優斗は、母親の言葉に生返事をして、再び夢の中へ……。  ――しかし。  「へっ…くしょぃっ!」 この真夏日に、寒さで目が覚める。目を開けると、室内なのに、息も白い。  どうしたことか、と、優斗は辺りを見渡す。  どうも、様子が可笑しい。寝ていた畳も、襖の唐紙も、仏壇も硝子戸も。全て、さっきまでとは違うものとなっていた。  急な変化に優斗は驚き、キョロキョロしていると、再び、仏間に近づく足音がするので、優斗は、母親が来たものと思い  「今行くよっ。しつこいなぁっ!」 と、声を張り上げた。しかし、そこへ来たのは母親ではなく、一人の少女だった。年は十二歳位だろうか。小柄で、前髪は横一直線に切り揃えられ、後ろ髪は高いところで一つに纏め、麻の葉模様のリボンで縛っている。そしてそこから二つに分けて三つ編みにしている。服装は、朱色と白の縦格子の着物に、マスタード色の袴を履いている。  優斗は、部屋が一変した事に重ね、見ず知らずの、しかも、まるで時代劇にでも出てくるかのような少女が現れたので、呆気にとられ、言葉を失った。  少女も、見ず知らずの少年が居ることと、その少年にいきなり怒鳴られたことで、少し怯えている様子だったが、何も言わずに、仏壇の前に正座し、手を合わせた。  しばらくすると、少女は優斗の方を向き  「私はこの店の一人娘、ミヱと申します。あなたは?」 と、質問してきた。優斗はそれに対し、  「俺もこの店の一人息子で、優斗って言います。」 と言った。  正直に自己紹介をしたお陰で、かえってややこしくなってしまった二人は、再び黙り込んでしまった。
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