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(この店の一人娘と言うことは、俺の妹か。俺、妹居たんだぁ。)
と、優斗が馬鹿げた事を考えて居る中
(この店の一人息子と言うことは、お父様ったら、養子でもとったのかしら。)と、又、ミヱもどっこいどっこいの思考回路で考えを巡らしていた。
「私はこれから学校へ参りますが、お義兄様はいかがなされますか?」
可笑しな誤解も解けぬまま、ミヱは質問した。
「夏休みに学校?プールでも行くの?」
「……夏休み?ぷぅる?何の事かよく分かりませんが、今日は普通に学校でございます。」
こっちこそ何の事か分からない、というような顔をしつつも、優斗は、ミヱの言う学校へ、一緒に行くことにした。
「その格好では外に出たらお寒いでしょう。今の流行のものではございませんが、冬物のお着物をお貸ししますね。」
ミヱは、おおよそ、優斗の身の丈に合う位の着物を、一式揃えて優斗に差し出した。
「襦袢は、その長着のものではないのですけれど、寸法は大体一緒の様なので、そちらを……。」
優斗は、自分の服は脱いだものの、一向に着物を着ようとしないので
「あっあの……お気に召しませんでしたかっ?はっ早く着ないと……お風邪を召しますよ!?」
と、服を着ない優斗をはしたないと思いつつも、気を遣い、ミヱは訊いた。
「いやね……着物……着方分かんなくて。」
優斗の予想外の言葉に驚いたミヱは
(着物も満足に着られないなんて、余程良いところに育ったのか、それともただ教養がないのか……。)
などと、心配をしつつも、ミヱは優斗に着物を着せた。
「ヒューッ。渋いねぇ~。カッコイイ!」
たかが普段着に、そんなにも感動するものか、と、不思議に思うミヱであったが、何はともあれ時間がなかったので、二人は急いで家を飛び出した。
ところが、急ぎたい気持ちでいっぱいのミヱをよそに、優斗は外の光景に驚き、立ち止まってしまった。いつも見ていた風景とは、まるで違う風景が広がっていたからだ。
どの家を見ても、木造や白塗りの壁に瓦屋根。たくさんの電線を支える、やたら高い電信柱。何より、道路や車が、全く違う。
ここで、優斗は、やっと今自分がおかれている状況を知った。
「……明治維新って、もう終わったの?」
という、間抜けな優斗の質問に
「もう大正じゃありませんか。」
と、ミヱは笑って返した。
(俺、タイムスリップしちまったんだ……。仏壇に足向けて寝たから、バチ当たったのかな。)
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