おにぎり

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そうこうする内に、ミヱの通う学校へ着いた。慣れない草履で走った所為か、足の親指と人差し指の間が痒い。  学校の大きな門には『尋常小學校』と書かれている。  ミヱを先頭に、木造の校舎へ入る。床を踏む度、キィキィと音がなった。  教室の前へ着き、初めにミヱが教室に入って、適当な遅刻の言い訳と、義兄が見学に来た、と、担任教師に伝えた。叱られるかと心配していた二人だが、快く聞き入れてもらえた。  どうやら今は、国語の授業のようだ。 児童たちが開く教科書を見ると、頭が蟹や蜂、栗などの人物が描かれた挿し絵に、カタカナで文章が記されている。どうやら猿蟹合戦のようだ。しかし、そんなことよりも、優斗は、教室の中のそこかしこが、気になって仕方がないようだ。床、壁、天井、窓のサッシ、机、椅子…すべてが木・木・木……。いかにも昔の学校らしい様子に感動する優斗。又、現代の暖房器具とは違い、鉄の箱の様なものに炭を入れて燃やし、箱と連結した煙突から外に煙を出す仕組みのものだった。あまりにも新鮮だったので、優斗はそのストーブを、舐めるような視線で見つめた。  「変な奴ー。」 などと、児童たちにバカにされるも、そんな言葉が一切耳に入らない程夢中になっていた。優斗は、ストーブに懲りず、窓の鍵や、又、教室を飛び出しては、始業時間などを知らせる鐘などを、はしゃいで見てまわった。  しかし、さすがに一人は飽きたらしく、教室へ戻ってみると、丁度弁当の時間だった。  「もぅ。どこへ行ってらしたんですか。」 呆れた様子で、ミヱは言った。  「ごめんごめんっ。学校超楽しくてさ。大正ってすごいねっ。」  いよいよ言ってる意味が分からなくなったミヱは、優斗に適当な返事をして、昼飯の入った包みを開けた。中には、おにぎりが一つ入っている。  何か言いたそうな顔をして見つめている優斗に  「あげませんよ。」 と、ミヱは冷たく言い放った。  「ケチーっ。俺朝から何も食ってねーんだよっ。おかずだけでいいからさぁっ。」 と、我が儘を言う優斗に、ミヱは顔を真っ赤にして、優斗の口を、手でふさいだ。そしてミヱは、周りに聞こえないような小さな声で、優斗にこう言った。  「今、何とおっしゃいました?おかず『だけ』でいい!?あいにく私のお昼は、このおにぎり一つです。食べたいのなら半分ですけど、差し上げます。でも、良いですか、もうそんな、無神経な発言はしないで下さい。うちは商家です。
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