蜜柑

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 授業がすべて終了し、優斗とミヱは家へ帰る。ミヱは家へ着くと、まだ商い中の父母に帰宅の挨拶をし、茶の間へ優斗を招く。  「まだ部屋が暖まりませんけど、堪忍して下さいね。お父様が来てからでないと、火をおこせないので。」 そう言いながら、ミヱは戸棚にしまってあった蜜柑を、優斗に差し出した。  「蜜柑お好きですか?」  「うん、好きだよ。蜜柑も、オレンジも、グレー…なんでもない。」 優斗は苦笑いをして、言葉を濁した。いくら横文字を並べたところで、通じないと思ったからだ。しかし、  「おれんじ?どんな食べ物なのですか?」 と、ミヱは興味を持った様子で、優斗に質問した。  「ん、蜜柑の仲間だよ。皮がかたいんだけどね、サッパリしてて美味いよ。」  「そうなんですかぁ。なんだか食べてみたくなりました。でも、私は……。」 ミヱは柔らかく微笑みながら、視線を手元に落とした。何か不味いことを言ったか、と、優斗は慌てた。しかしミヱは、パッと明るい表情になり、優斗の顔を見た。 「あったあった!ほらっ!」 ミヱは、優斗に、あるものを差し出した。それは、小さな粒の蜜柑であった。  「このっこのね、大きい蜜柑の粒と、粒の間に挟まれてる、小粒の蜜柑が好きなんです、私。入ってると、嬉しい気持ちになりません?」 と、嬉々としてミヱは言った。優斗は、自分まで嬉しくなり、ミヱの笑顔を、微笑みながら見つめた。しかし、それもつかの間、突然、優斗の目の前が真っ暗になった。
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