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「なあ、洋大」
地面を踏みしめる音だけが支配する世界に、再び大次の声が響き渡る。
「なんだよ?」
俺は聞き返す。
「さっき言ってた妖族の話だが、この山の事なんだろ?」
「まあ、もっと奥の方だったけどな」
俺は最後の一口を吸って、紫煙を吐きながら、スニーカーの底に煙草の火をこすりつけて鎮火させる。
「どうせ来たんだ。ついでに探さないか? その妖族」
ジーパンの尻ポケットから取り出した携帯灰皿に、吸い殻を放り込み、蓋を閉めてポケットに戻す。
「無理だよ。例え見つけても、向こうは俺の事なんざ覚えてねえって」
そこで欠伸を一つ。
「それは、実際に会ってみないとわからないだろ?」
大次は微笑を湛えてこちらに顔だけを向ける。
俺はそれに肩を竦めて見せた。
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