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フワリ…浮くような感覚がして、地に足を着けた。ゆっくりと目を開けば、赤と黒が視界に広がる。
「ここは…?」
視界に映る赤、あか、紅。それは血と炎の色。倒れている人が紅い血で染まり、家々や木々が火に包まれ焼け落ちていく。
黒は夜空と、目の前に佇む血塗れた剣を携えた黒鎧の騎士と兵士たち。
「あ、の……」
戸惑いも露な声が聞こえて、後ろを振り返った。そこには声の主と思われる幼さが残る青年と、その仲間だろうか。数人の人。それぞれが疲労困憊しているのが目に見えてわかる。
「…貴方が、私を召喚したのですか?」
問うた先は紫紺の髪をした先ほどの青年。彼はぎこちない動きで頷く。
「ならば、ご命令を…主殿。」
「あ、えと………とにかく、ここから逃げたいんだ。アメルを逃がすために、君の力を貸してほしい…!!」
アメル。というのが誰かはわからないが、とりあえず避難が目的らしい。敵は目の前の黒の騎士と、囲むように散開している黒の兵士か…一度目を伏せ、着物の袖から出した扇子を両手に持った。
「仰せのままに。」
ひらりと衣を翻し、扇子を開く。
「……そのような武器とも言えぬもので、女一人に何ができる?」
静かに言った黒の騎士の声は思っていたよりも若かった。しかし、身に纏う空気は数々の死線を潜り抜けてきた戦士のもの。威圧さえ感じる彼は、おそらくは指揮官だろう。隙のない立ち姿はそう思わせるに充分。
「たかが女と、甘く見ないで頂きたい。」
黒の騎士を見据えて扇を構える。それを見て相手も血塗れた大剣を構えた。
「木之参‐衝波。(もくのさん、しょうは)」
静かに謳い、一対の扇子を一扇ぎする。大きな動きのないそれに、彼女以外の皆が疑問を抱くと同時、ざわりと風が啼く。次の瞬間には嵐…それ以上の爆風が起こり、黒の兵士たちが次々と吹き飛んだ。
「なっ…!?」
眼鏡をかけた蒼の派閥の召喚師、ネスティ・バスクが驚きのあまり、杖を落とした。カラン、と音を立てたが、仲間の誰も気にもとめない。彼女を召喚した同じ派閥の召喚師マグナ然り、全員が、風を起こした彼女を凝視している。
あれほどの爆風を起こして、兵士たちをことごとく吹き飛ばしたのも驚きだが、その風が自分たちにはそよ風程度にしか感じられないことにも驚いた。
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