ザイニン.

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    「ちょっ、まじかよ!」   佐助は大通りのような場所を全力で駆け抜けていた。 説明は今し方聞き終え、拳銃を受け取り、最初の場所を離れた。 どうやらそれがいけなかったらしい。   建物か木どこかに隠れながら幸村たちを探そうと目論んでいたときであった。 響いた警戒音。始まりのサイレンか何かだろうかと思ったのだ。 公園やどこやらに設置されている時計は22時を回っているし(空は明るいのが妙な気分だが)、何分説明を聞くまで延ばしてくれたのであろうとも思った。   しかしおかしい。先ほどから人の気配がする。後ろを向いた佐助の口と目は大きく開かれた。 鬼がこちらへ疾走してきていたのである。   「警戒音なら警戒音だって言えっての!俺様馬鹿みてえ!あーもうしつけーよもう!こっちくんな!」   走っても走っても鬼はついてくる。時折振り向いて距離を確認するも、あまり距離は開いていない。 無闇に走っても別の鬼に見つかってしまうと無駄口を叩いている場合ではない。   十字路に身を滑らせ、まっすぐに走り抜け、また出た大通りを抜け、裏道に来た時点でやっと鬼を振った。 完全に撒けたことを確認してからできるだけ身を潜めながら木にもたれた。  もし、今の逃亡で幸村たちと離れてしまっていてはと背筋に嫌な汗が滲む。 額の汗を拭い手に持ったままになっていた拳銃を貰ったものに入れ腰にしまう。   「…は」   今の鬼が一般の鬼でよかった。選り抜きとやらでは佐助も危うかったかもしれない。   40人の鬼から逃げるのに1人では心細い。 かといって、いつまでもこの場所に居ては危ない。深く息を吸い込んだ後、慎重に歩きだした。   ルールによれば、自分の足で逃げなければいけない。 足がやられてはもう死んだも同然。何としても足だけは庇わなければ。 言えば、鬼も足を狙ってくるとも見れる。つくづく嫌なシステムだ。   「……」   長年一緒にいたときの記憶を思い出しながら、佐助は歩いた。 逢いたい気持ちはもう限界。叫びたい気持ちはもう喉まで。 鬼という存在が本当に鬱陶しく思え、佐助は小さく舌をうった。 一歩二歩、三歩と来たとき、またもやけたたましいサイレンが鳴り響いた。   佐助は不吉な笑みを口元に、腰にある拳銃を素早く抜くと屈伸を数回繰り返す。 そして、迫る3人もの鬼を見つめた。   「鬼さんこちらァ手の鳴るほうへ。俺様を捕まえられるなら、どうぞやってみなってね」         (あの日はもう戻らない光)   
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