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「あーらら、大丈夫?」
佐助の背には、袋小路独特の行き止まりがあった。
多少息切れ、はっはっと浅く短い呼吸を繰り返しているものの、負傷は見当たらない。
口元には余裕じみた笑みさえも浮かべている。手には、拳銃。
眼の前には3人の鬼。最初は4人いたのか、一人の鬼が地へと伏せていた。血が流れている。
撃ったのは、佐助。
「あんたらも必死だねぇ、たかが10代後半の餓鬼3匹。そんな息切らさなきゃ捕まえらんない?」
挑発ともとれる言葉は低い声色で紡がれた。3人の鬼はともに拳銃に手を掛けている。佐助が逃げようとすれば撃ちつけるに違いないだろう。
と、その中の一人の鬼が徐(おもむろ)に拳銃を抜き、佐助へ向けると躊躇なく撃った。ばんっと佐助の頬から血が流れ、さらりと横髪が揺れ、後ろの壁に大きな亀裂が入る。
顔が歪んだ。
「…ばーか。頭はココだよ、ほぅら、ココ」
威嚇のため撃った銃弾か、当てるつもりで撃ったのか。少なくとも今の一撃では死ななかった銃弾。
なのに佐助は自ら撃ってみろとでも言いたげに、こんこんとこめかみをノックしてみせる。
鬼の眼の色が変わった。そしてもう一度銃口を佐助へと向ければ、引き金へと指が触れる。佐助が身構えた。
(来るなら来てごらん。真っ赤に染めあげてあげる)
乾いた音が、空へと舞った。
「………!」
佐助は、倒れない。倒れたのは、鬼だった。
どしゃりと前へと倒れ、その息絶えた死体を後ろにいた人影が思いきり蹴りつける。
隣り合わせにいた2人の鬼が、さっと己らの中間へと現れた人物に同時に銃口を向ける。が、遅かった。
人影が自らの左側の鬼のこめかみへと銃弾を撃ちつけ、佐助は右側の鬼の鳩尾へと銃を撃ちつけた。どうっと二人同時に鬼が崩れる。
佐助の表情が、歓喜喜々恍惚へと変わった。頬の血を拭うことも忘れ、ふら、と一歩歩み出す。
「だ、んな」
舌がうまく回らぬ声。歓喜。愛しい。
ああ、あなたはここにいた!
「佐助の頬への礼だ、戯け共が」
現れた人影、真田幸村は地面に転がる鬼にぺっと唾を吐きつけた。
(俺のものに触るな見るな傷をつけるな。さすれば俺がお前らを殺してやる。)
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