カクセイ。

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「まさかあんたが来るなんて…怪我は?」 「無傷だ。すまぬお前の頬を傷付けられぬ前にと思ったのだが、何分遠くから銃を撃てば危険だと」 「平気。こんなの舐めれば」 「だが、」 「平気だよ、そんな顔しないで」 顎を引かれ目がかち合うと、幸村はそのまま血の流れでる頬を舌先で舐め上げた。 ぴりっとした痛みも、彼からのものだと確認できれば愛しさにしか変わらない。眼を細めてその感触を楽しんでいた。 佐助が幸村の背中を抱こうとと肘を伸ばしたときだった。 幸村がぱっと身体を離したのだ。不思議そうに見上げる佐助は、幸村の手が拳銃へとかかったのを見つけた。 「音がする」 「え?」 それはどんな音なのかは言わない。が、佐助はすぐにそれを悟ることができた。 近場だ。何かが地面へ擦られ叩きつけられる音が響いている。数人。倒れたのは2人。立っているものは4人。 音だけで、何故ここまで映像が目に浮かんでしまうのか。このときの佐助は疑問にさえ思わなかった。 そして佐助は、腰にかけた拳銃に手を。険しい顔つきをしている幸村が肩越しに振りむく。 「政宗殿だ」 その言葉で初めて思い出した。ゲームの参加者はもう一人いる。 伊達政宗。 佐助とは元は同じ場所に閉じ込められていた、右目がない男。過去は知らない。 聞いても彼は答えなかった。が、聞いた直後に見えた狂気からして、この男も人を殺したに違いない。 縁もなく、仲柄もよいとは言えない。だが幸村の友であった。 閉じ込められている中、何かと話はあっていたらしい。似ている、と数回呟いたのを聞いている。 それがとてつもなく気に入らなかった。何故なのかは、やはり知らない。 真田幸村と縁があるものはどのみち好かない。ましてや彼に似ているなどと。 黙り込む佐助の頭を幸村の手が撫でた。 「そんな顔をするな」 「別に何とも思っちゃいねぇさ」 「気に食わぬか」 「どうせ放っとけっつっても助けるんでしょ」 「不利にならぬ、ためであろう?」 「……分かってる」 ゲームの中だけの仲。そう言い聞かせても、佐助の彼に対する憎悪ともとれる嫌悪は外せない。 幸村の走りだす背を、抱き締めたくて抱き締めたくて。放っとけばいいじゃないと何度も心で嘆いて叫んだ。
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