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最北端にある庇っていた農民の村も。自分の自慢だった伊達の兵も。あの、右目の男でさえ失った。なのに自分だけ生き残っていた。
(どうして?)
どうせ天下は手に落ちないことを知っていた。織田、豊臣、徳川。
旗が倒れまた旗が立ち、色に埋め尽くされていく中行く末などこの左目でさえも見えていたはずなのに。
それでも自分の全てを奪っていったのは、旗を立て世界を統べていくものたちでは、なかった。
(ご機嫌いかが、独眼竜の旦那)
言葉はこんなにも鮮明に頭へと刻みつけられている。
あの、忌々しい緑の衣服をまとい挑発じみた笑みを浮かべた男を知っている。
自分の命を最後に奪ったあの大型手裏剣が身へ食い込み、肉を抉り、血を誘った感触も覚えている。
なのに。
俺を殺したのは、誰だった?
(ご機嫌いかが、独眼竜の旦那)
顔が映らない。顔だけが映らない。
お前は誰。俺のすべてをかつて奪って嘲笑って殺したお前は。
顔が思い出せない。
(ご機嫌いかが)
お前は。
どさっと最後に立っていた鬼が仰向けに倒れ伏せた。未だ、政宗は立ち尽くしていた。
周りには、さっきまで彼を追い詰めていた鬼たちの亡骸が無造作に転がっている。
いつの間にか、手に持っていた拳銃がかたんと音を立てて地に落ちた。いつ抜いたのかは覚えていない。
一瞬の合間に、時間はたってしまっていた。左目に光はかすみ、血に濡れた右目が痛い。
「………」
記憶に満たされる。心が憎しみで埋まり果てる。
憎悪。嫉妬。後悔。
どれもこれも、あたかなまともな感情ではないのに。
(これで伊達もおしまいっと。残念でした。あんたじゃ所詮、無理だったんだね独眼竜の旦那)
眼が大きく、見開いた。
「、政宗殿!」
血に濡れ果てた自分の名を呼ばれた、振り返った、赤いあいつが目に見えた。今の俺を見て驚いているような顔だった。
それでもいつも通りの顔を装い、真田、と開きかけた声は、飲み込まれた。
眼が一点に集中する。記憶に満たされる。心が憎しみで埋まり果てる。
憎悪。嫉妬。後悔。
その後ろに、いた、のは、
「これまた派手にやっちゃって。さぁすが伊達ちゃんだねー」
俺を殺したのは、俺を殺したのは、誰、だ、った?
(お ま え か)
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