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「前世を信じるか、お前は」
吐きだされた言葉の色は、独り言のように切なげだった。窓から見える景色は、灰色。それでも焦がれて眼を向ける。
長い間、処理待ちと名付けられての監禁は心の注意を完全に忌わしかった青い空へと逸らしていった。
侮辱罪。監禁罪。殺人より重くはない。だがきっと、今に死刑という極刑が降りる。遊びに参加させるためのものだろう。命をかけるには少し恐ろしい遊びのようにも思える。
この男でも、嫌だと漏らすようになるのだろうか。
「興味ねえよ、俺には」
牢越しの鉄格子から聞こえてきた声もまた、どこか悲しげなものだった。
言うと思ったと元就はその言葉に憫笑する。自分もそれを気にしているわけではない。
ただ、時折戸惑いを魅せるあの記憶が何なのか。隣に居る男が関わっていると思ったから。
この男を見るたび、溢れる何かはいいものではないけれど。
「前世に何があったとしても、俺らはもうなーんもねえ。ただの「餓鬼」だろ。壁が消えてよかったじゃねえか」
「犯罪を犯し極刑に下される子供がただの餓鬼か」
「それを言うなよ」
少なからず、元親の心に引っ掛かっているものもよいものではないだろう。
思い出される記憶の中に必ずあった血の意味も、恍惚とも嫉妬とも呼べるお前への記憶の片鱗も。
捨てろとお前は言う。気ままなものだ。相変わらずだ。俺らは混じり合える世界へと生まれて来れたのか?
血を見なくていい、死を見なくていいと心のどこかで喜んだはずだったのに、結局は血を見る。
そして今度は「殺される側」へと移り変わる。
「…逃げ切ってよ、俺ら全員釈放!とか言ってみようぜ」
「全員が生き残れる自信があるのか」
「ああ有る。誰も死なねえよ」
そうだ。その根拠も何もない、自信さえも見いだせないはずなのにお前の絶対的な言葉が疎ましかった。
計画性も何も見せないくせに、お前は未来にあるはずのことを予知したかのように笑う。
それが俺には分からなかった、気がする。
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