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冷たく冷えた傷だらけの白い壁に背を預けて、膝を立てている一人の青年。
表情に色はない。
異常なほど伺えるのは「生」に取憑く暗く深い情念だ。
服装は全身制服のようなものをまとっている。
やはり学校や学院のような印をどこにもつけていない。全身真っ黒なスーツのようにも見えた。
ふと膝を伸ばすと身体を身軽そうにひょいと持ち上げる。
立ちあがり、軽々しく背伸びを交わすと口元にはへらく細い笑みを浮かべた。
手をふると、なる骨の音。
見兼ねた警備員ががしゃんと鍵の降ろす。
礼儀正しく頭を下げたあと、小声でどうぞあちらへ、と相図した。
先ほど違う牢から出た警備員とは違い、こちらは随分と扱いを考えているようである。
「わざわざどうも」
わざとらしい笑み。冷たく殺意のこめられたそれに警備員はぶる、と身ぶるいを落とした。
(お前もいつか殺してあげる)と囁かれた(かのような)悪寒。
それに気づいたのか気付いていないのか。
それっきり彼は何も言わず、おぼつかない足元を揺らし、かつん、こつんと階段を上ってゆく。
こき、と首のなる音が聞こえた。
「…旦那元気にしてっかな。迷惑なんてかけちゃいねーかな」
いや、むしろ迷惑をかければいい。と実際の本音は矛盾している。
それでも彼は表面上の嘘を装い、笑みをそのままに階段をひたすら登っていく。
彼に逢いたい。彼に逢いたい。そればかりを頭に浮かばせ。
鬼ごっこを経たその先の世界に佐助はひゅう、と口を鳴らして見せた。
「さぁて、子供は寝る時間」
(開幕のベルが、今。)
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