リハビリ

2/7
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「──そんなこと、北村さんには関係ありませんっ!」 日野の怒号と二人の老人の笑い声が飛び出したのは、200号室。 日も昇って六時頃。役目を終えようとしていた日野が、掃除がてら目覚めの早い老人たちの相手をしていた時である。 「俺を甘く見たらいかんぞ。日野ちゃんが河野先生に好意を持っていることは一目瞭然だしな」 「じゃなきゃ、こんな毎日夜中に河野先生の相手をするわけ無いよねぇ」 日野の怒りを買った客は、窓際で笑いながらも鋭い目を向ける北村、そして、その隣のベッドの上でニヤニヤしながらも腕のストレッチをしている大嶋だ。 彼らは六十を越えている患者とは思えないほど生き生きとしていて、日野は毎日のように“ちょっかい”をかけられていたのだ。 「だ、だから誤解ですってば! 大体仕事じゃなきゃ、あんな人と一緒にいないですよっ!」 「焦ってる焦ってる」 「焦ってませんっ!」 金属製のちりとりを床に打ち鳴らしながら、集めた埃を掃き集めていると、北村のベッドの向かい側、足に落書きだらけのギブスを着けている榊が口を挟んだ。 彼は高齢層の多い200号室で唯一の若者であり、年は17才だ。 「灯さんは彼氏いますしねぇ」「はい!?」 「なにっ、本当か?」 田村の言葉に日野と同じくらい過敏に北村が反応する。日野とは違い、有邪気な子供のようにワクワクした表情を見せていたが。 「う、嘘つかないでよ義人君! 灯、彼氏なんていないよ!」 「あれ? でも今日の真夜中、外で若い男の人と会ってたじゃないっスか」 「今日の真夜中……?」 そう言われた日野は、あの騒然とした夜の内容を模索し始めた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!