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――俺と美琴のクラスは2年のA組。
3階の廊下をそのまま真っ直ぐに歩き、2-Aと書かれた札の下げられた教室で立ち止まり、その扉を開く。
もう昼休みも終わると言うのに、未だに教室内は騒々しい。
「それじゃ、また後で」
「はい、現」
俺と美琴の席は結構離れている。
俺が廊下側、美琴が窓際。
俺からすれば直ぐに食堂に直行できる位置なので嬉しい事この上ないのだが、美琴が置いていかれるのを非常に嫌うので、案外そう直ぐに出られるわけでもない。
俺は美琴が窓際の方へトコトコ歩いていくのを一瞬見やった後、ガタンと自分の席の椅子を引いてそこに座った。
彼女が現れたのは、丁度その時である。
ガラリ、と教室のドアが開く音。
扉の直ぐ近くに席がある俺は、ぱっと振り向いてその入室者の顔を確認する。
「……」
「よう、冬実(ふゆみ)」
やや茶色ががった腰まである長髪に、睫毛の長いキリっとした瞳。
その名のとおり、どこか雰囲気に寒さ、いや、冷たさを漂わせるその少女。
名を矢野 冬実。
「食堂では見かけなかったが、どこで食ってたんだ?また屋上か?」
「……」
まるで友人の『ように』気軽に声をかける俺を無視し、彼女は俺の列の先頭の席の椅子を引き、そこに腰掛ける。
「……ふぅ」
溜め息。
「……嫌われては、ない……かな」
【シツボウシテイル】
彼女の父が殺人の罪を問われ、警察に捕まったのは一年ほど前。
かつては凛としていながらも、時に微笑し、時にむっとしたりもした、そんな感情のある少女だった彼女。
『人殺しの娘』。
その称号を与えられた彼女に舞い降りた災厄は。
いじめ、蔑み、孤独。
その全てが、彼女の心を急速に閉ざしていった。
【キサマハオクビョウモノノウラギリモノ】
ザザザザ。
ノイズ。
脳内。
うるさい。
不愉快。
全ては虚偽。
忘れろ。
考えるな。
【ノイズハオマエノホウダ】
「――ッ!」
ガンッ、と。
何かを強く叩く音が、教室内にこだました。
何人かの生徒が、不思議そうな顔でこちらを見ている。
「……あ、すまん。何でもない」
俺だ。
俺が、強く机を叩きつけた音だった。
――かつて友人であり、まとめ役であり、憧れであった彼女は。
今、俺の傍にはいない。
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