第一章:崩壊より

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昼休みが終わり、五時限目の授業開始のチャイムが鳴る。 カレーを3杯も食した昼食のおかげで、俺はひどく満腹を覚えている。 故に。 「ふぁ……あ……」 退屈な数学の授業。 こうしてあくびが漏れてしまうのは必然とは言えまいか。 とろん、と瞼が落ちていくのを感じる。 瞳を見開こうと尽力してみようかとも思ったが。 「……ぐぅ」 結局俺は、身体の欲求に答えてやることにした。 睡眠欲。 さあ、存分に惰眠を貪るとしようか。 とりあえず、教師にたたき起こされるその時までは。 ――ズルリ。 意識が、滑る。 ズルリと。ザブリと。 滑り、潜り、混濁する。 俺は、眠っているのか? 【ネムッテイル】 朧気に、真っ暗だった視界がひらけてゆく。 これは、夢か? 【ユメダ】 『そこには、神様が住んでいる』 幼い日の記憶。 遠い過去。 親戚から、父から、母から。 伝え聞かされた伝説。 『あの林の奥。ポツリと、ひっそりと』 寂しそうに。 忘れ去られたかのように。 『今でもたまに、ご老人の方々は参拝に行かれたりもする』 手を叩き、崇める。 そこに祀られたモノを、唯一の存在として。 絶対的な存在として。 『そこは、願いの叶う祠』 願いを。 望みを。 全てを。 全能なる彼のモノが。 叶え。 救う。 【スクワレナイ】 救われる。 【コレハコウカイノモノガタリダ】 これは、希望の物語だ。 【コレハザンゲノモノガタリダ】 これは、贖罪の物語だ。 【スベテハタダノジコマンゾクダ】 全ては、ただの偽善だ。 ――それを、聞き届けましょう。 ――あなたの、願いを。
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