第二章:贖罪より

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「――てください」 「……う?」 「起きてください、現」 寝起きで視界がきかない瞼をごしごしと擦り、目を開く。 ……だいぶ眠ってしまっていたようだ。 俺の目の前には美琴。くるりとクラスを見渡してみると、教室内は既に閑散としている。 「ひょっとして、もう授業終わった?」 「ひょっとしなくてもそうです。全く……帰りのホームルームまで完璧に熟睡されて……」 はぁー、と。大袈裟にため息をついてみせる美琴。 「気持ち良さそうに寝てましたが、何かいい夢でも見れましたか?」 「夢……」 夢、か。 そうだな。俺は確かに夢を見ていた気がする。 それも、とても昔の夢を。 「……どうしました?黙ってしまって?」 「いや、ちょっとどんな夢見てたかなって、考えてただけだよ」 小さく笑い、俺は鞄を手に取り、立ち上がる。 「じゃ、帰宅するか」 「はいっ」 俺と美琴は二人並んで教室を出る。 恋人のように寄り添うでもなく、友人のように小突き合うわけでもない。 ただ、全く同じ歩幅、同じ歩調で、静かに歩く。 それはまるで、影のように。 それはまるで、分身のように。 コツ、コツと、階段を下り下駄箱まで辿り着く。 「……?」 そこで、何か言い争うような声が聞こえた。 いや、言い争うのとは違う。 片方が一方的に責めている。 「美琴……、ちょっと」 誤解しないでほしいが、厄介ごとに首を突っ込むのは趣味じゃない。 ただ、少し。ほんのちょっぴり覗いてみようと。 たったそれだけの好奇心だった。 しかし。 「現、よくありませんよ」 美琴はそれを見咎め、声のする方へ行こうとした俺を服の裾を掴んで引き留めた。 「大丈夫、見るだけだよ」 「だからです、現」 「え?」 美琴は真剣だった。 いや、必死だった。 違う、どこか焦っていたようにも感じる。 とにもかくにも。 彼女の今の表情は何か思い詰めたような、そんなものであるのは間違いない。 「現。行くのなら覚悟をしてください」 「覚悟って……」 「それを目の当たりにして、なおそれに立ち向かう覚悟を。それが出来ないなら、今はまだ行くべきではない」 「……」 わからない。 彼女は一体、何を俺に訴えかけたいのか。 その言葉の真意は、何なのか。 わからない。でも、何だろう。 【ウラギリモノ】 行かなくちゃ、いけない気がする。
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