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『今、俺の目は見えているのだろうか?』
問う。
解の出せない問を、俺は虚空、俺の主観として虚空としか言い表せぬそれに投げ掛ける。
『誰に問うたのか?』
誰もいない、俺の主観として無人としか言えないこの世界において、俺の問に答えられる人間はただ一人だった。
即ち、自分自身。
故に、解無し。
俺は視覚情報を主観的なものしか得ることが出来ないため、今自分が見ているものは現実か、それともタチの悪い幻なのか、それを知り得る手段を持っていないのだ。
『幻だ』
だから、決断をくだすのも自分自身。
『こんな世界、ただの幻だ』
目の前に途方もなく広がる白に、白くて、無で、白と言う概念もないほどのセカイを、俺は『幻』だと吐き捨てた。
『だから、この痛みも、錯覚だ』
痛い。
痛い、痛い。
足が痛い。
腕が痛い。
全てが痛い。
痛んでいないのは、心だけなのか。
今の俺に、心が存在すればの話ではあるが。
「……」
言葉は一言も発することなく、俺はひたすら歩き続ける。
足の痛みなど、俺が歩みを止める理由にはならない。
悪夢だ。
幻覚だ。
夢幻だ。
故に、いつか覚める。
早く、覚めたい。
こんな悪夢の中をさ迷い続けなくてはならないなんて、まっぴら御免だ。
俺が見たいのは、幸せな夢なんだ。
「……」
沈黙は無。
無は沈黙。
無がこのセカイを形成するならば、今俺はこのセカイそのものなのだろうか。
歩みは、止めない。
『どこへ向かっている?』
三度目の問は、虚空に溶け、俺の元へ回帰することはない。
初めから俺に対するものであり、それでいて、解を用意されたものだったから。
『向かう先は、決まっている』
あの場所へ。
『この悪夢からの、解放を』
願いを。
『俺の、願いを――』
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