幻プロローグ:神の恋

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それはつい最近。 いや、遠い過去。 違う、そう昔のことではない、ただ確かにあった過去の記憶。 まだ幼かったあの少年は、いつも目を涙に腫らして私の元に訪れていた。 やれ父に怒られた、だとか。 やれ欲しいものを買ってくれない、だとか。 取るに足らない子供の不満を、ひたすら私にぶつけてくる。 私はただ、静かに耳を傾ける。 何も言わず、黙って彼の話を聞いていた。 少年はいつも一通り不満をぶつけ終えると、晴れ晴れとした笑顔で私にお礼を言う。 そうして、来たときとは違い、軽やかな足取りで去っていくのだ。 再び、孤独。 常に孤独であり、孤独が故に我であり、我であるが故に孤独。 彼だけだ。 私を、私として、ワタシであるが故の私ではなく、そのままに相手をしてくれたのは。 それはつまり。 その瞬間だけは、私はワタシから解放されたと。 そう言うことなのだろう。 唯一無二のワタシから、ただ何のへんてつもない私へ。 幸福。喜び。笑顔。 それは全て、彼が在ってのもの。 彼は、私を何と定義しただろうか。 友。 もしそうであったなら、この上ない幸福であることは疑う余地がない。 少なくとも、私は、彼をそう定義する。 故に。 彼を、友を救うことは必然である。 唯一であるから許された権限。 孤独であるから許された権限。 平等であるから許された権限。 ワタシは私ではあるが、私は既に唯一でもなければ孤独でもなく。 そうであるからして、平等ではなくなった。 故に。 それを行使。 全知全能ではない。 無知全能であるワタシ。 今この時。 かつて孤独の闇から救ってくれた彼が、孤独の闇に襲われるのならば。 ワタシが救おう。 ワタシは私であるが故に、ワタシとなって貴方を救おう。 さあ、願え。 さあ、望め。 ワタシは無知全能である。 無知であるからこそ、知ある貴方が道を示せ。 我が全能が、全てを救おう。 唯、友である貴方の為だけに。
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