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物語の始まりが、朝でなければならないと言う定義はない。
自己の覚醒が、目覚めから始まると言う定義もない。
ならば、ここから始まることに、もしこの物語をどこかから覗き見る輩がいたとしても、何の文句もつけられないはずだ。
構わないだろう?
俺は食事をしている時が一番幸せなのでね。
物語はここからの開幕とさせてもらう。
ここから後ろにセカイはない。
あくまで、それはこの物語をそのいるかもしれない傍観者の主観からとらえた場合ではあるが。
……はて、俺の主観からはどうなのかって?
それはまた別のお話。
何にせよ、今、現時点、俺と言う存在は、とにもかくにも学校の食堂でガツガツとカレーを貪っている。
これだけが全ての傍観者、出演者、その見解の一致する事実なのである。
食堂はそれなりに混み合っている。
昼休みも半ば。
時計の短針は12と1の中心を指し示し、相方の長針は7と8、それのやや8よりを示す。
12時38分。
あ、今39分になった。
どうでもいい。時刻は『大体』12時40分だ。
「ガツガツ食べますね……。もう3杯目じゃないですか」
やや呆れた視線を無遠慮に向ける、俺の向かいに座る1人の少女。
その目の前には、ちょこんと小皿に盛られたサラダ。
その隣に既に中身のないどんぶりが一つ。
カレーうどんとサラダ。
よくわからない組み合わせをチョイスしたものだ。
「それはな、美琴。お前が食うのがあまりに遅いからだ」
祠 美琴。
それが彼女の名。
永瀬 現(うつつ)と言う俺の名前に負けないくらいけったいな名字を持つ彼女に、俺はやや抗議の視線を向けた。
「な、なんでですか。なんで食べる速度がナマケモノ並だからってあなたが3杯もカレーを食す理由になるんですか」
別にナマケモノ並だとは言ってないが、実際努力を怠った亀くらいには遅いと思う。
未だにサラダを食べ終えてないところが、それをよく表している。
「俺が先に食い終わるだろ?で、お前が俺の目の前でカレー臭漂わせながらツルツルとカレーうどんをすするわな。そりゃ、俺の食欲も刺激されるっての」
「か、か、か、か、加齢臭なんてしてませんっ!」
「は?」
「ピチピチですっ!まだ若いですっ!」
「……いや、何を言ってるの君」
何かボケボケ勘違いをしていらしている模様の美琴さん。
……いつものことだった。
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