第一章:崩壊より

3/9
前へ
/82ページ
次へ
「お前の体臭の話はしてない。そんなのどうでもいいから、さっさとそのサラダを片付けないか」 「む。ふったのは現の方ですのに」 いや、だからそれは勘違いなのだが。 まあいい。またここで訂正を入れて変に話を拗らせるより、黙って彼女の食事の進行を促す方が懸命だ。 ――春。高校生。その二学年の一学期。 俺の周りには見ての通り、正面でサラダをパクついている美琴しかいない。 いつからこんな寂しい昼食時を、過ごすようになったのだろう。 「……あ」 ふと目が合う。 それは丁度、俺が肘をつき、視線を横に向けたその時だった。 こことは別のテーブルに座り、また、別の友人と食事を取る彼の姿。 奴は俺と目が合ったその瞬間、気まずそうに視線をそらし、また自分の食事に集中した。 井出 忍(しのぶ)。 幼馴染みであり、ライバルであり、友人であった彼は、今、俺の傍にはいない。 彼と俺とを結んでいたはずの絆は、ぷっつりと切れてしまったのだ。 悪いのは誰だか、俺はよく知っている。 【シッテイル?】 俺だ。悪いのは俺だ。 俺が、ダメだったから。 俺の、罪だ。これは、俺の。 【ナニガオレノツミ?】 「……?」 ザザザザ、と頭の中にノイズが走る。 原因、不明。 何かを、阻害しているような、何かが欠けているような。 違和感。 違和感を感じ、違和感として処理させない違和感。 「……どうしたんですか?」 「ん……、ああ。ボーッとしてた」 不思議そうに俺を覗き込む美琴。 見ると、サラダの入っていた小皿は、いつの間にか空になっていた。 「大丈夫ですか?別段酷いわけではありませんが、顔色は決してよくありませんよ?」 「大丈夫。ボーッとしてただけって言っているだろう」 カレー3杯分の皿をトレイごと持ち上げ、立ち上がる。 混み合っていたはずの食堂は、今や先ほどの半分くらいしか人がいなかった。 「あぁ、あぁ、待ってください待ってください。私、まだスープを飲みきってないです」 言って、どんぶりを両手で持ち、口元に運ばんとする美琴。 「スープとかどうでもいいよ。そんなもの打ち捨てろ」 「な、な、なんてことを!スープを笑うものはスープに泣きますよ!本当ですよ!」 「スープに泣かされる状況なんて一生来ない。断言してもいい」
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

440人が本棚に入れています
本棚に追加