第一章:崩壊より

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むーっ、とでも声に出しそうな目で俺を睨んでくる美琴を無視し、俺はさっさと食器の洗い場へと足を向ける。 「あぁーっ!本当に置いてくつもりなのですかーっ!」 背後から彼女の涙声が俺の鼓膜を震わせる。 が、俺の心まで震わせなかったようで。 「……」 俺は立ち止まって振り向くことすらせず、「ごちそうさま」なんて食堂のおばちゃんに声をかけながら、自分の食器をぱぱぱっと洗い場に放り込むのだった。 「うぅ……、1人で寂しく飲むスープは辛いです」 「いや、カレーだからだろ」 「ふえ!?現、先に戻られたのでは!?」 ぱぱぱっと自分の食器を片付けて仕方無く戻ってきてみてやれば、彼女の持つどんぶりのスープの分量は、少なくとも俺の主観としてはまるで減っていなかった。 はあ、と一つわざとらしくため息をついて、俺は再びテーブルに肘をつく。 「早く飲め」 「ああ、やはり現はお優しいお人ですね。食器を片付けて尚、私に付いて待っていてくださるなんて、美琴、感激です」 「は、や、く、の、め」 両手を頬の横で握りこみ、『感っ激!』のポーズを作る美琴を、俺はやや怒気の混ざった声で食事の処理を促してやった。 しかし、彼女。そんな俺の態度など意に介することなく。 「はいっ!さくっと、すぱっと、ごくごくといただきます!」 満面の笑みで、天使のような笑みで、そう答え。 「……ごく、ごく」 喉を鳴らして、カレースープを飲み干しにかかるのだった。 「……はあ」 実に、全く、いやはや、本当に。 噛み合わない行動だった。
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