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むーっ、とでも声に出しそうな目で俺を睨んでくる美琴を無視し、俺はさっさと食器の洗い場へと足を向ける。
「あぁーっ!本当に置いてくつもりなのですかーっ!」
背後から彼女の涙声が俺の鼓膜を震わせる。
が、俺の心まで震わせなかったようで。
「……」
俺は立ち止まって振り向くことすらせず、「ごちそうさま」なんて食堂のおばちゃんに声をかけながら、自分の食器をぱぱぱっと洗い場に放り込むのだった。
「うぅ……、1人で寂しく飲むスープは辛いです」
「いや、カレーだからだろ」
「ふえ!?現、先に戻られたのでは!?」
ぱぱぱっと自分の食器を片付けて仕方無く戻ってきてみてやれば、彼女の持つどんぶりのスープの分量は、少なくとも俺の主観としてはまるで減っていなかった。
はあ、と一つわざとらしくため息をついて、俺は再びテーブルに肘をつく。
「早く飲め」
「ああ、やはり現はお優しいお人ですね。食器を片付けて尚、私に付いて待っていてくださるなんて、美琴、感激です」
「は、や、く、の、め」
両手を頬の横で握りこみ、『感っ激!』のポーズを作る美琴を、俺はやや怒気の混ざった声で食事の処理を促してやった。
しかし、彼女。そんな俺の態度など意に介することなく。
「はいっ!さくっと、すぱっと、ごくごくといただきます!」
満面の笑みで、天使のような笑みで、そう答え。
「……ごく、ごく」
喉を鳴らして、カレースープを飲み干しにかかるのだった。
「……はあ」
実に、全く、いやはや、本当に。
噛み合わない行動だった。
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