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「はぁー……、堪能しました」
「……よかったな」
結局、美琴と2人で食堂を出たのは、昼休み終了も間近と言う時間になって、だ。
振り返ってみれば、既に食堂に残っている人間は1人もいない。
これでも人より早く来て、早くに食べ始めたはずなのに、一体これはどういうことだろうか。
……言うまでもない。
このスーパーウスノロ少女のせいである。
食べる量は人並みで、食事に対する独自のこだわりに関しては誰よりもうるさいと言うのに、この異常なまでにスロウな食事スピードは、食材に対しての冒涜じゃないかと思う。
何故ならば。
せっかく出来立てを出されても彼女の場合、食べてる途中に冷ましてしまうのからだ。
出来立てが何でも、例外はあれど、美味しいと言うのに、それを味わいきれないと言うのは問題と言えないだろうか。いや、言える。反語で強調。
「あ……」
と、俺が美琴を『生まれながらにして料理の敵』であると頭の中で決定した、そんな時だった。
「おはようです、現さん、美琴さん」
「……もう昼だぞ」
「一日の始まりの挨拶だから、これでいいんです」
「ごたくはいい」
丁度、食堂と教室とを繋ぐ三階の廊下、その途中。
そこに彼女、宮凪 あいかはカバンを持って佇んでいた。
「おはようございます、あいか」
「はい、美琴さん。カレーの汁が服に飛んでますですよ?」
「ああっ!いつの間にっ!」
いつも何も、カレーうどんを食っているときだろう。
「あいか」
「はい?」
名を呼び、彼女の姿を改めて眺める。
隣にいる美琴と比べるとよくわかるが、実に細い。
肌も、美琴も白いが、それよりも遥かに白く、どこか青い。
一目で、『ああ、あまり身体が丈夫じゃないんだろうな』と。
そう、わかってしまう体つきなのだ。
「……お前、今日は出てきて平気だったのか?」
「はい。朝は少し調子悪かったですけど、今は結構オーケーな感じなのです。心配してくれてありがとです、現さん」
「気にするな。元気ならそれでいいんだ」
「……はい。……また、皆と一緒に……現さんと一緒に遊べるように、私絶対に身体治して見せますですからっ」
「……ああ。約束だ」
「はいっ」
あいかの笑顔が、声が、温もりが、今彼女は目の前にいるのに、別世界のもののように感じる。
かつて友人であり、相談役であり、親友であった彼女は。
今、俺の傍にはいない。
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