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「この町が、赤月の女の生まれた町なの?」
車の後部座席に座る朝香が、窓の外に流れる町の景色を眺めながら呟いた。
「おいおい、まだ決まった訳じゃないよ。
そうだとしても、正確には『赤月の女という化物』が生まれた町であって事件の被害者である『彼女』が生まれ育った町ではないからね」
「え? そうなの?」
八嶋が付け加えた説明に、朝香が窓の外から視線を外して気の抜けた声を出した。
朝香の言葉に、視線を前方に向けたまま八嶋が口を開く。
「【冴嶋 登喜子(さえじま ときこ)】は、事件の八年前に離婚してこの町に移り住んだんだ」
「冴嶋登喜子って誰?」
この朝香の言葉に、助手席に座っていた佑奈が大きく溜め息をついた。
「これから調べる事件で殺された母親の名前だよ。
資料に書いてあったよ?
事件の内容ばかり気にして名前まで読んで無かったの?」
半ば呆れたような口調で佑奈が呟いた。
二人のやり取りを聞いていた八嶋は視線を移す事なく口元だけを緩ませた。
そんな三人とは裏腹に、統太は窓の外を虚ろな瞳で眺めていた。
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