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「早速ですが、当時の事を聞かせて頂けますか?──あっ、出来れば知り合った経緯も教えて下さい」
「知り合った経緯も、ですか?」
「はい。覚えている範囲でよろしいのでお願いします」
「分かりました」
差し出されたコーヒーに手をつける事なく言った八嶋に、盛岡はゆっくりと話を始めた。
「今から十八年前に冴嶋さんはこの町にやって来たんです。
ここから少し離れた所に、一戸建ての空き家に息子さん達と引っ越してこられました。
後々聞いた話なのですが、旦那さんと離婚してこの町に来られたようです。
昼間は近くにある商店街のお店でパートのお仕事をされていたみたいで、二歳になったばかりの息子さんをこの幼稚園に預けられていました。
私が冴嶋さんと知り合ったのは息子さんを園に連れて来られた時です。
私と冴嶋さんの歳が近い事もあり、親しくなるのもそう長い時間はかかりませんでした。
息子の【陽太(ようた)】君も、とても良い子で、陽太君が卒園した後も交友はあったんです」
そこまで言うと、盛岡は言葉を失ってしまったかのように口を閉ざして俯いた。
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