プロローグ

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 視線の先にあったのは、本来の形を失った子供の姿。 左腕、右腕、左足、右足、そして未成熟な小さな胴体。 その全てがバラバラに切り裂かれ、一つの個体と化していた。  ──何で……。  何を考えているのか、何を考えていいのかも分からない。 頭の中は真っ白になり、原因不明の頭痛と吐き気を発し始める。  ──ナンデナンデナンデ!  ふらふらとよろめきながら歩き、床に転がる小さな腕を抱き上げた。 力を入れると壊れてしまいそうなほどの小さな腕は、今や身体の一部として存在していない。 母親は涙を流しながら抱き締めた。  どれほどの時間そうしていただろうか。 それは長い時間ではなかったが、母親には永遠のように長く思えた。  外からの風が子供部屋の窓をがたがたと揺らす。 同時に、背後から鈍い音を立てて転がる何か。──黒く、丸い何か……。 窓から差し込む、ほの暗い月明かりが照らし、その正体を明らかにしていく。
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