怪奇倶楽部

プロローグ

　それは、幼き子供の頭部だった。

あまりの衝撃に、母親はその場から動く事が出来ずに崩れ落ちた。

手に持ち、抱きかかえた小さな頭部は、まだ微かな温かさを残していた。

　何故こんな事になっているのか分からない。混乱が母親を支配する。

　直後、自分の背中に違和感を覚えた。

片手で子供の頭部を抱えながら、もう一方の手で、自分の背中を触る。

片手に感じる液体に触れる感触。掌にべっとりと染み付く新しい鮮血。

　自分の身に起きた事を察すると同時に、頭部に強い激痛を感じた。

母親の身体は壁の方へと飛ぶように倒れこみ、抱きかかえた子供の頭部は床を転がっていく。

腕を伸ばし、子供の頭部を抱きかかえようとするが、徐々に重くなっていく瞼と共に意識は薄れていった。

　それは二度と目覚める事の無い眠り。

　閉じた瞼から零れた涙は頬を伝い落ち、赤く染まる血の中へと混ざっていった。