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ある日、私は紗江子ちゃんに問題をだしてもらう形式で日本史の勉強をしていた。するとそのとき、机から消しゴムがころんと落ちた。紗江子ちゃんは、それをぱっと拾おうとして…できなかった。指は消しゴムを通り抜け、ぱちんと閉じた。
「…いけない、ものはつかめないんだった。」
と紗江子ちゃんは言って笑った。しかし、その笑顔は少し寂しげだった。紗江子ちゃんは、前に自分が幽霊であることをほとんど気にしていないと言っていた。だが、心のすみでは思うところあったのだろう。だから、笑って私を、そして紗江子ちゃん自身の心をもごまかそうとしたのかもしれない。
そんな紗江子ちゃんの姿を見たから、私の口からその言葉はこぼれてしまったのだろう。
「…好き。」
私は焦った。
(ヤバい。何言ってんだろう、私。)
恋愛感情を抱いていたことがバレたら、紗江子ちゃんに避けられてしまうかもしれない。いや、そうに決まっている。私は、思わずこの状態から目をそらそうとばかりに、目をかたくつぶった。そのとき
「…嬉しい。」
私は、目を見開いた。紗江子ちゃんは、優しくほほえんでいた。
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