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息苦しい空間。
そうとした形容出来なかった。白いカーテンは閉じている窓を覆い、机の近くにある本棚の上に置かれたコンポからは控え目な音楽が流れている。最近発売されたお気に入りのアルバムだ。クーラーの効いた部屋の中は程よく冷えており、上着を羽織る必要も無さそうだった。
白い壁。天上に見えるは木目などではなく、螺旋のように描かれた紋様。その空間の中にはそれほど高くない木製の本棚と、小さい花柄が薄い黄色でプリントされている布団に覆われたベッド。そして窓に横付けする形で設置された学習机。そこから差し込む日光がカーテンに遮られながらも机を僅かに照らす。部屋の中央には、アクリル板の小さなテーブルがある。
ただそれだけの空間なのに、息苦しいとしか感じられないのは、部屋の主だけの主観だろうか。ベッドにもたれかかる形で床に体育座りをし、膝を抱えながら少女は埋めていた顔をほんの少し上げてみた。視線の先──アクリル板のテーブルの向こうには少年が居る。少女の本棚から取り出したものではなく、近くの図書館で借りてきたという分厚い文庫本を手に。彼の傍らには数冊の本が積まれている。どれも今少年の手に持っているものと厚さは変わりない。
「……ねぇ」
不意に、少女が声を発する。投げかけられても少年は顔を上げる事もせず、「何ですか」とだけ返した。その無愛想な様子に少女が怒る事はない。目を伏せ、眉を八の字のしながら次の言葉を紡いだ。
「…………あいつにも、ちゃんと話そうよ…………」
「必要ありません」
にべもない。取り付く島も無い彼の言葉に少女は再び膝に顔を埋めて鼻だけで息を吐いた。
その時、彼女の側に置かれていたケータイが震えた。彼の読書の妨げにならないようにとマナーモードにしていたそれに手を伸ばす前に、彼もまたズボンのポケットからケータイを取り出すのを見る。同時に鳴ったという事に妙な親近感を覚えて微笑みながら、彼女は折りたたみ型のそれを開く。視界の片隅で、彼も同時に開いているのが見えた。
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