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暑い。暑いあつい暑いアツい。
炎天下としか形容出来ない程の外気の温度は彼の思考にまで影響を与えているようだった。いくら日影とはいえ、外に出ても暑い事に変わりはない。憂さ晴らしにと市が運営している公共の体育館までやってきたのだが、窓を開けても暑い室内に耐え切れず、重い扉を押し開けて風を受けているのだ。
コートを表す白い線がいくつも引かれた木目の床、その端に腰掛けてスポーツタオルで汗の吹き出る顔を拭く。しかし、いくら拭いても、汗は止む事を知らないかのように皮膚に滲み出てくるばかり。逃れていく水分を補給しようと、彼は持参していペットボトルのスポーツ飲料を口に含む。冷凍室で凍らせたはずのそれはこの暑さにもかかわらずなかなか溶けておらず、一口分しか口内に入らなかった。苛立ちが少しばかり募る。
喉を潤す為に喉仏を上下させ、息をつく。舌に残る甘味が忘れられず、唇を舐める。味覚は僅かしか刺激を与えてはくれなかった。さらに募る苛立ちは彼の性格を現しているのか、それともこの暑さが人の感情を煽るのか。思考ではなく脳の方が溶けてしまうのではないかと思うぐらいに暑い気温の中で、彼は空を仰ぎ見た。
脳裏に浮かび上がるのは彼が今もっとも気にかけている存在と、別の存在から先日受けた言葉。胸中に去来する思いは苛立ち以外に何も無く。空から地面へと視線を移した彼の眉が逆ハの字を形作り、唇を噛みしめる。右手に持つペットボトルの中身が固かった事は幸いだろう。力が込められた容器はプラスチック特有の高い乾いた音を立て、僅かにへこんだ。
苛立ちを解消させる手立てが見つからない。思考をめぐらせ、解決策を見出そうにも糸口が見つからない。それは暑さのせいだと、自己完結する事で目を逸らし、彼は振り払う為に立ち上がる。
ペットボトルを帽子を含めた荷物の横に置いた時、彼の視界に飛び込んだのは青い点滅を繰り返す折りたたみ型ケータイのサブディスプレイだった。青色はメール着信音であったがサブディスプレイには誰からのものであるのかが表示されない為、彼は誰からだろうかといぶかしみつつ、それを拾い上げて、開いた。
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