グランギニョルラプソディー【仮想世界】

プロローグ・c

　＊　＊　＊　＊　＊

　開いたケータイ。待ち受け画面と共に映し出されているのは【新着メール　１件】という文字。上部中央にある丸いボタンを押してすぐにメール画面に飛ぶ。受信アドレスの一番上に表示されたアドレスは前半部分が『sekai-no-souzousyu』という意味の分からないアルファベットの羅列が名並んでいてやけに長く、見覚えも無ければこのようなメールを送ってくる人物も思い当たらない。当然のごとく抱く疑念をさらに膨れ上がらせたのは、アドレスの下に表示されている件名を目にしたからだ。

『ゲームへのお誘い』

　噂に聞くチェーンメールとやらだろうかと考えるが、そういったものにしては奇妙な件名であり、同時に好奇心をそそられた。『ゲーム』という単語が遊び心をくすぐったのもあるだろう。内容を知りたくなって、思わずもう一度同じボタンを押した。画面はすぐに内容の表示に切り替わる。長い内容らしく、文は途中までしか表示されず、画面左下に『続きを読む』という文があった。それにカーソルを合わせてクリックし、受信を開始する。『受信が完了しました』という文と共に表示された『ＯＫ』を迷わず選択し、早速現れた全文に目を通す。記されていたのは次のような内容だった。

『真夏の暑い日が続く中、いかがお過ごしでしょうか？
　さて、今回このようなメールを送らせていただきましたのは、あるゲームへの参加のお誘いです。
　ゲームの内容は参加してのお楽しみとなっております。参加したい方は文末にあります【はい】をクリックしてください。
　参加したくない場合は今すぐこのメールを削除してください。
　参加するもしないもあなたの自由。ただ、これだけは一つ言えるでしょう。
　あなたはこのゲームで大切なものが見つかるかもしれません。
　さあ、どうしますか？

　　【はい】　』

　不思議というよりも奇妙といった方が正しいかもしれない。内容もすでに意味不明状態。そんなメールは無視するに限るのだ。
　限るはず……なのに、何故か惹きつけられるものがある。
　指が動き、中央のボタンに当たる。一瞬だけためらった後、先程メールを開いた時と同じように、【はい】を押した。

　都会の、どこかで、いくつかの姿がひっそりと姿を消した。
　それを目撃した者は誰も居ない。